こんな「お仕事」小説、見た事ない!『タイタン』作者:野﨑 まど
さまざまな職業に関する作品は多く存在するが、『仕事とは何なのか』ということを突き詰めていく作品は初めて見た。
人工知能(AI)『タイタン』により、快適な生活ができるようになった未来が舞台となっている。人が働かなくても食べていける。むしろ『人が働かないほうが食べていける』世界。かつて人間が『仕事』としてしていたことを全てAIがやってくれる。心理学博士である内匠成果(ないしょうせいか)の行っている研究もあくまで『趣味』だ。
ある日、世界にある十二のAI拠点の一つ『コイオス』に機能低下が発生した。全てをAIに頼っている世の中で、一つの拠点が失われれば食べ物が得られなくなるし、家のドアだって開かなくなる。社会の混乱を防ぐために、内匠成果は半ば脅迫という形で問題の解決を任される。その解決方法が、AIを人格化しそれと対話。AI『コイオス』とのやりとりは話を追うごとに、思わず笑みがこぼれるほど微笑ましいものとなる。
AIにまつわる作品は伊藤計劃さんの『ハーモニー』しか読んだことがなくて読み切るまでビビっていた。(私は伊藤計劃さんの作品も大好きだ。彼の描くディストピアの世界は本当に心を抉られる。元気な時に読むことをお勧めする)『タイタン』はすっきりとした読後感。登場人物も魅力的。とても気持ちのいいエンターテイメント作品だ。
この作品は、本当に『良い仕事をした』。読み終えたとき、きっとその言葉が思い浮かぶことだろう。