ふつうのじゆうちょう

日々思ったこと、思い出したことを自由に書いていきます。

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ショートショート『暇なので悪魔を呼んでみた』

 アタシはどこにでもいるOL。昨日、カレシと別れたばっかり。他に女ができたんだって。あり得なくない? 週末にデートしようなって言ってたくせに。わけわかんなくない? 自分の発言に責任持てよってハナシ。あーあ。

 暇なのマジ耐えられないから仕事帰りに変な本買っちゃった。真っ黒な表紙に血みたいな色で『悪魔召喚~初級編~』って書いてあんの。ウケるんですけど。上級編もあるのかよって感じ。友達はいるけどみんなカレシと遊んでばっかであんまりアタシと遊んでくれないんだよな。今週遊べる? って聞いたら来週ならいいよ~って。だから暇つぶしに悪魔ショーカンしようってわけ。なんか色々準備しなきゃいけないらしくて、とりま近所のスーパーきた。閉店まであと三十分あるわ。大抵のモノ売ってるし、まあなんとかなるっしょ。しらんけど。で、何がいるわけ? 本を開いた。

「『呪われた水』? んなもんあるわけないじゃん」

 飲み物コーナーに行って五百ミリのいろ〇す五本を買い物カゴに放り込んだ。おっも。でも週末家に引きこもるならこれくらいいるっしょ。で、あとは何がいるん?

「は? 『トカゲとヤモリ』?」

 お菓子コーナーに行ってあたりめとゲソをカゴに放り込む。だいたい合ってるっしょ。ビールが飲みたくなったじゃん。飲み物コーナーに戻ってロング缶三本カゴにぶち込んどいた。次はなんなわけ?

「『契約者の血』? えー」

 三秒ほど悩んで製菓材料売ってるコーナーに行って食用色素(赤)ってやつカゴに入れた。だって痛いの嫌じゃん? 赤けりゃいいっしょ。

 ついでに半額のコロッケとかアメド(アメリカンドッグ)とか買っといた。だって悪魔ショーカンするなら、何かギルティなものあったほうがよくない? しらんけど。

「よーし、やるぞー」

 家に帰ったアタシは悪魔召喚の準備を始めた。

 で、何すりゃいいの。

 ふーん、袋とじに入ってる魔法陣の書かれた用紙を床に置いてください? 袋とじってエロ本みたいだな。そういうもんじゃないん? まあいいや。

 用紙を床に広げて、中心にキャップを開けたいろ〇すと、あたりめとゲソを置いた。いろ〇すとイカの周りに食紅を垂らす。うーん……イカのにおい嗅いでたらビール飲みたくなったからとりまビールの缶開けて飲んだ。うまっ。やっぱイカはうまいな。あ、しまった、つい魔法陣の上に置いたイカ一本食べちゃったよ。まあいいや。んで、なんか呪文唱えなきゃいけないみたいなんだけど、なっが……。

「エロイムエッサイム、以下省略!」

 まあ、そもそも? アタシみたいなシロートが悪魔をショーカンするなんて、できるわけないんですけど。はー、ビールうま……二本目、開けよ……。疲れてるせいか、今日は酔いが回るの早い。寝落ちしそ……。

「……は?! え、ちょ、ちょい、待ち!」

 ボンって音が聞こえてきて、一瞬で目が覚めた。思わず立ち上がった。いろ〇す置いてた辺りからモクモクって煙が出てきて、部屋についてる火災報知器からサイレンみたいな音が鳴った。『火事です』って火災報知器言ってるけど、これ火事じゃないんですけど!

「貴様か、私を呼んだのは」

 いきなり真っ黒なマントを着た、変な人が出てきた。ていうか、人じゃないわ! 顔、ガイコツなんだけど?! アン〇ンマンのホ〇ーマンみたいなやつ! 可愛い系のガイコツ! でも声は低い! 段ボール箱被ってコソコソ移動する兵士みたいな声! 法外な治療費を請求してくる闇医者と同じ!

「そうだけど!」呼んだのはアタシなのでとりま答えとく。

「望みは、何だ」イケオジ的声で訊いてくる可愛い顔のガイコツ。

「火災報知器止めてよ!」アタシ止め方知らないんですけど!

「カサイホウチキ、とはなんだ」って、マジな声で言う可愛い顔のガイコツ。

「上にあるやつだよ、バカ!」

「うむ、承知した」思わずバカって言っちゃったけど怒られなかったわ。セーフ。

 で、可愛い顔のガイコツは真っ黒なマントの中からでっかい鎌を取り出して火災報知器に当てた。火災報知器は粉々に砕け散った。これ、修理にいくらかかるんだろ。ま、いっか。

「叫んだら疲れたわ。あんたもビール飲む?」

 あぐらをかいて、ビニール袋から最後の一本のロング缶を取り出した。ガイコツはビールを見つめたまま黙っている。

「遠慮しなくていーって。テキトーに座っていいよ。コロッケとアメドもあるから一緒に食べようぜ」

「うむ、承知した」

NPCかよ」

 さっきと同じことを言われて笑ってしまった。

「えぬぴーしーとは、なんだ。私の名は……私の、名は……」

 何かメチャメチャ困ってる。

「え、もしかして記憶なくしちゃってる系?」

 テキトーにショーカンしちゃったからだったらどうしよう。責任問題じゃん? ヤバくない?

「うむ……どうやら、そのようだ」相変わらずイケボだな。

「うーん」ビールを一口飲んで考える。「とりま、飲もっ!」悪魔なのかドクロなのかよくわかんないけど、ビールの缶を押し付けるように渡す。骨むき出しの手が受け取った。

「かんぱーい」

 ビールの缶を前に出すと、

「……? かんぱーい」

 おどおどしながらアタシのマネをした。明日のことは明日考えるとして、今日は花金! 飲む! てかこれ、どー考えても夢っしょ。

「ありがとね」

 アンタのおかげで、暇じゃない週末になったよ。アタシはそのまま寝ちゃった。

 次の日。目を覚ましたら、側にガイコツが三角座りしててマジビビったんですけど。

「てかアンタ、帰らなくていいの?」

「帰る方法が、わからないのだ……」しょんぼりするガイコツ。

「そっか……しばらくここにいなよ」

「いいのか?」ちょっと嬉しそうにするガイコツ。

「うん、いーよ」

 アタシが呼んじゃったんだから、責任取らないとね。