ふつうのじゆうちょう

日々思ったこと、思い出したことを自由に書いていきます。

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運命的な出会いはあるのだという話

小学生の時はクラブ活動があり、中学生になると部活動に所属することになる。入りたい部活がなくても、私が通っていた学校では何らかの部活に入らなければならなかった。中学一年生になった私は、美術部に入ろうと決めていた。絵を描くことも、工作も得意ではない。しかし、何かを作るという行為は好きだった。イラストは好きなアニメや漫画を見ながら見様見真似でたまに(本当に、気まぐれにという頻度だった)描いていたし、好きな漫画のキーアイテムが地元のおもちゃ屋に売っていないとわかると、自作していた。本当は、本物が欲しかったけれど、その当時ネット通販なんてなかったのでどうしようもなかったのだ。だから作った。とある魔法少女のステッキなのだが、ステッキの柄はかの有名な便利アイテム『突っ張り棒』、モチーフ部分は段ボールとビニールテープで作ったのを覚えている。出来はお世辞にも立派とは言えないが、当時の私は満足していた。

 

美術部に入って何をしよう、という明確なビジョンはなかったが、部活に入ればきっとやりたいことが見つかるだろうし、そうでなくても絵を描いたり、何かを作ったりする機会に触れれば技術や知識が得られるだろう、とふんわり思っていた。

希望の部活動を紙に書いて提出した。どのような用紙だったかは忘れたが、多分、第三希望まで記入したと思う。第一希望はもちろん美術部。第二希望に合唱部、第三希望は全く思い出せない。後日、担任から「合唱部に入らない?」と声がかかった。中一時の担任は、合唱部の顧問だったのだ。

 

私が第二希望に合唱部を記入した理由は『いとこが合唱部だったから』というだけだった。そもそも第一希望が絶対に通ると思っていたので適当に書いた。私は歌うことが得意ではないどころか、大嫌いだった。カラオケに行けば断固として歌わない。しかし、周りに歌いなよと言われ渋々歌う。あの罰ゲーム感が嫌だった。歌が嫌いなのは、自分の声が好きじゃなかったというのが大きな理由だった。

 

中学生になった時、私の心の中に芽生えたのが『何かが変わるかもしれない』という期待だった。小学校は一クラスしかない小さな学校だった。中学になると急にクラスが七つにも増えた。引っ込み思案で人見知りが激しく、ろくに人の目を見て話せない私だが、このままではいけないと、『中学生デビュー』を計画していた。知り合いしかいない小学校で突然キャラ変すると『どうしたんだ?』と馬鹿にされるかもしれないと思っていた。だから、知っている人のいない環境に放り込まれれば、これまでの自分と違う自分を演じられるだろうと思った。そして、狙い通り、私は同じ小学校出身の人が1人もいないクラスに割り振られた。正直、怖かった。けど、チャンスだとも思った。

 

結論から言うと、教室内での友達作りは『それなりに』上手くいった。絵を描くのが好きな子を見つけ、話しかけ、その子から面白い漫画を教えてもらう……そうして私のオタクとしての土台が完成した。『それなりに』と評価したのは、決して深い関係を築けなかったからだ。中学一年生の時のクラスメイトで、現在連絡を取っている人は一人もいない。

 

だが、合唱部は違った。これは本当に、運命の出会いだった。楽譜の読み方もろくにわからなかったが、ピアノの音に合わせて練習していくうちにそれなりに上手く歌えるようになったのだ。私は地声が低いということもあり、低音パートであるアルトを担当した。ソプラノ、メゾソプラノ、アルトの三つがある。アルトだけ練習している時は、なんだか地味な感じがするのだが、三つのパートが合わさったとき、体に電流が走った。背中が震えた。音楽を聴いた時に、同じような感覚を味わった人もいるだろう。そこから、私は合唱、そして歌にハマった。あれほど嫌いだったカラオケに、自ら行きたいと言い出した。合唱はまさに、人生を変えた出会いだった。担任が合唱部の顧問だったこと、私のいとこが合唱部に入っていたこと、それがなければ私は合唱部になんて入ろうと思わなかった。歌という楽しみを知らないまま、年を取っていた。そんなことを想像すると、ちょっと寂しい。

 

この運命的な出会いを経て、私は歌手を目指した――
という流れにはならない。目指そうと思ったことすらない。これは本当だ。音楽にまつわる仕事をしているわけでもない。私の中で歌は趣味の一つでしかないが、それでも部活動でのさまざまな経験は私を作る大切な要素だ。あの時、合唱部に入ったから今の私がいる。これだけは間違いないと胸を張って言える。

 

ちなみに、合唱部で声の出し方を徹底的に練習したおかげで、私は自信を持って自分の声が『エエ声やで』と言えるようになった。現在、飲食店で働いているのだが、私が声を出した瞬間、ハッとした顔を向けられることがたまらなく気持ちいい。そして度々言われるのだ。「お姉さん、すごく声が綺麗だね!」と。「ふふ、顔も綺麗ですよ」と言いたい気持ちをぐっとこらえつつ「ありがとうございます」と笑顔を返している。